【其壱】井の中の蛙大海を知らず
有名なことわざの一つで、井戸の中に閉じ籠もっている蛙に喩え、「狭い知識や考え方にとらわれ、ほかにもっと広い世界があるのを知らない」という、先達の教えであり、教訓でもあります。
【其弐】井の中の蛙大海を知らず されど空の深さを知る
後になって、「されど空の深さ(青さ)を知る」という、続きが作られたそうです。
これは、「狭い世界で一つのことを突き詰めたからこそ、その世界の深いところまで知ることができた」という意味です。其壱、其弐、いずれも共感できるものですね。
【其参】井の中の蛙 井の中にいることを知らず
これは、私がお世話になっていた先生が仰った言葉であり、仏法をいただくところの領解(りょうげ)です。
つまり、井の中にいる蛙は、井の中にいることすら分かっていないというのです。狭い知識や考えにとらわれて、自分が正しいと信じて疑うことがないという意味であるかと思います。
親鸞聖人のご和讃(わさん)を紹介します。
煩悩(ぼんのう)にまなこさえられて
摂取(せっしゅ)の光明(こうみょう)みざれども
大悲(だいひ)ものうきことなくて
つねにわが身をてらすなり
私の眼は、煩悩によって雲霧のごとくさえぎられ、真実を見ることができない。
しかしながら、阿弥陀如来の大悲は、常にわが身を照らしてくださっていると。
日常生活や仕事では、自分の経験と価値観を信じて突き進むことも大事ですが、真実を見る眼は、煩悩にさえぎられているのです。
良かれと思ってしたことが、上手くいかなかったり、相手を傷つけたりすることがあるのもその為でしょう。
阿弥陀如来の光明(智慧・慈悲)に出遇うことがなければ、井の中にいることすら気づくことがない。
狭い知識にとらわれている井の中の主人公は、私であったと教えられたように思います。
自己を問い、自分を知る。浄土真宗の救いの要です。
(住職 松岡文昭)